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雑炊閣下備忘録

ブログというものを始めてみることにした。どうなるか分からないが、いろいろやってみようと思う。

メタルギアソリッドVには何が足りなかったのか

 発売からだいぶ日も経ってるわけですし、こんなブログを覗く人でまさか知らない人もないと思いますけれど、一応ネタバレ注意ですよ。

 

「この文章には、あることの他にないことも書かれている。ここで読んだことは、あくまで『ここだけの話』としておいてもらいたい。ご利用は自己責任で、ということである」

 

とまあそういうわけで。

始めるといたしましょう。

 

 とりあえず、みなさん感じてると思うのはですね、まあ要するに、

悪とは結局なんだったのか

という、これです。

 世間では例の影武者展開がわりと不評のようで……というか、私自身もこれにぶち当たった時は、しばらくプレイ意欲を削がれるていどにはダメージを受けました。

でもですね、冷静に考えて、私は本当にビッグボスの悪堕ちを見たかったのかっていうと実はこれが結構微妙なところなんですよ。

 

 いや確かに、カリスマソルジャーでありながら天然でもあるキュートなオッサンが、何をどう間違えばあのシリアスな世界観で悪役を張れるのかっていうことには一定の興味はありはするんですけれども、よくよく考えると、それってメインではなかったんですな、これが。(シナリオの巧さへの期待というのでしょうか。すれた人ならどうせ無理だと諦めてしまうタイプの期待です)

 こんなことを書いていると、シナリオはどうでもいいからとにかくゲーム性を追求しろ、みたいな主張をしているように誤解されそうですけど、いやそういうことじゃないんですよ。今回のTPP、遊んでいて全く悪に堕ちた気がしないんですが、それって多分、思っているより単純というか、お約束を果たしていないからという、ただひとつの理由に帰結する気がします。

 

 つまりですね、悪に堕ちた気がしないのは、劇中プレイヤーが関われる場所に、“悪”がないからなんですよね。

ここでの悪っていうのは世間一般のそれじゃなくて、あくまでメタルギアシリーズでの話。つまり、メタルギアシリーズにおいて悪とは何かという問いの答えが、そのままこのゲームに足りなかったものになると思うんですよ。

 

 で、この答えなんですが、愛国者達とかサイファーとか民族浄化とかいろいろ出てきそうですけど、そんな難しい話じゃなくて、これって要はメタルギアのことなんですよね。

シリーズを通して、メタルギアうんたらってタイトルが出ている時点で、外伝のライジングは知りませんけど、とりあえずロボット兵器が敵の所有物として登場することは確定しているんですから、逆に言えばメタルギア(またはその亜種)を持ってるということが悪役の証明にもなるわけです。

だから、悪に堕ちた気がしないといっても、スカルフェイスは、たとえ外道なことをしていなかったとしても、みんなが「今回の悪役はこいつか」みたいな感じで共通認識として把握しているわけで、悪がまったく不在というわけではないんです。

 

 そう、このゲーム、「悪に、堕ちる」と言いながら、プレイヤーに悪役をするための道具をほとんど渡していないんですよね。

これは逆の場合(悪に堕ちるんじゃなくて、正義のヒーローになる場合)を考えればわかりやすくて、たとえばバットマンを操作するゲームでありながら、ガジェットの類がほとんどないっていうのに似ています。ずっとスーツ無しのブルース・ウェインを操作させられるっていうのは、確かにウェインの格好であっても、強盗に襲われている家族を助けることはできるっていう意味で「ヒーロー」なのかもしれないけれど、プレイヤーの思っている「スーパーヒーロー」とは違うわけです。

本当の宝物は、ここに来るまでに築いた俺達の絆だったんだ、みたいな、まあ分からないでもないけど何となく釈然としないというか、肩透かしを食らうような結末。

プレイ後に「あれが悪ってことだったのかな」と、ぼんやり思い浮かべないといけないオチ。

そういう消化不良感と、ストーリーの未完成感、それがモヤモヤの主成分であって、実のところビッグボスが本物かどうかというのは割とどうでもいい性質の問題だったのではと思いますね。

 

 上にも書きましたけれども、これは別にビッグボスという存在がメタルギアサーガにとってさして重要でないという意味ではなくて、仮の話、たとえばこの話の冒頭(グラウンド・ゼロ)でビッグボスが死亡していれば、「俺たちは二人でビッグボスだ」みたいなセリフを聞いてもあんまり違和感を覚えないというか、むしろ感動できたような気がするんです。

影武者展開がよくやり玉にあがっているのは、ゲームそのものの「足りない」感覚の原因がこの設定にあるんじゃないかという考えも絡んでいるんじゃないでしょうかね。

「結局このスネークは偽物だから悪に堕ちていないのであって、本物のビッグボスはしっかりと悪堕ちしてて、相応しい展開をたどっているはずだから、そっちを見せて欲しかった」っていう意見は多いと思う(というか私がそうだった)けれども、本当にそうなんでしょうか。

 

本物のビッグボス自身が悪に堕ちる必要性って、なくないですか?

 これまで描かれてきた彼は、どっちかといえば善人でしたし、憎めない男でもあった。こういったパーソナリティを全部ぶち壊して悪に堕ちていく様子って、本当に見たいものですかね。ぶち壊さないとしたら、どす黒い悪意の中にも妙なユーモアがあるジョーカーみたいな悪役になってしまいますが、これなんか、むしろ見たくない類の展開じゃありません?

「もとのビッグボスとは別人だったから、悪に堕ちた」っていう方が、展開としてはよほどしっくりくると思います。新たなビッグボスとしてある程度のものは受け継ぎながらも、オリジナルとはまた違ったものになるっていう。

もちろん、シリーズ全体の整合性を考えると、ビッグボス本人に悪に堕ちてもらわないと困るわけですけれども、これはプレイヤーの希望とはまた違った次元の話になりますから、今はおいときましょう。

 

 そう、影武者展開は別に悪くなかったのです。あれは整合性を保つための設定であって、別にプレイヤーを出しぬいてやろうとか、まあ多少驚かせてやろうとは思っていたでしょうけど、そういう気持ちがメインで作ったわけではなかったと思いますね。

 

 じゃあ一体、何が良くなかったのか。

もう具体的に書いてしまいましょう。最も単純にいえば、それはプレイヤーがメタルギアに搭乗できないことなんです。

悪に堕ちるんですよ? それはつまり悪役になるということ。悪役になるということは、メタルギアに搭乗するか、あるいは利用することとイコールでつながります。

それを端的に表しているのが前作PWですよね。あれも、スネークたちがメタルギアを入手し、自らの戦力とするあたりで終わります。メタルギアは悪役の証明であり、資格なのです。(PWの場合は、アウターヘブンに変わっていくことを暗示していますね)

今回の展開でも、スネークたちは鹵獲したメタルギアサヘラントロプスを研究棟の屋上に配置しますけれど、あれこそが「悪」に一歩近づいたという証だったのです。

(したがって、あれを少年兵たちに奪わせてマザーベースから無くしてしまったのは、展開としては完全に失敗だったと言わざるを得ません)

 

 FOBに侵入してきた生身の兵士をメタルギアで迎撃したり、アフガニスタンメタルギアで出撃して戦車部隊を壊滅させたり……そういった行為は、ゲームとしてはやりがいに欠けていて、ちょっとした爽快感しかもたらさないかもしれませんが、やっていることは完全に悪そのものです。

別に弱い者いじめがしたいわけではなく、これまで「悪」にだけ許されていた手段をとることができるっていうのが、プレイヤーに提示できる「悪堕ち」だったんじゃないかと思うんですよね。

マザーベースでメタルギアの開発が始まり、資源を消費して核武装を実現し、優秀な兵士をガンガン集め……そうやって、ふと気づいたら、ダイアモンド・ドッグズであったはずが、アウターヘブンを運営していた。私はそういうものを期待していたんです。

 

 悪に堕ちた気がしない理由は、もうこれだけと言ってもいいんですけれど、しいて言うならばもう一つあります。

それは、計画の欠如です。これはメタルギアシリーズのみにとどまりませんが、悪役の専売特許のひとつに壮大な計画というものがありまして、たいていのお話で、悪役と言われる連中は、自ら用意した遠大なシナリオのもと、プレイヤーたちの一歩も二歩も先を行っています。

悪の計画がどういうものかが、次第に明らかになってゆくというのも醍醐味ですから、これ自体はいいんですが、今回は悪に堕ちるということなんで、スネークたちもある程度の計画があってしかるべきですよね。

 

 それが、どういうわけか、今作には見当たらないのです。

スカルフェイスは悪役らしく暗躍しまくっていますのに、スネークたちときたら、それなりに技術も人員も揃ってきているのに、常にその後を追いかけているだけで、先手を取ってスカルフェイスをあっと言わせてやろう、みたいな気概がまるで感じられない。

劇中さかんに「報復」という言葉が使われます。報復とか復讐とかいう言葉には確かに何となくネガティブなイメージがあり、それはもしかすると「悪」といえるものなのかもしれませんけど、真面目に巡回しているだけの兵士を、「邪魔だから」という理由であっさり射殺できる世界観において、そんな倫理観に基づく善悪にどれほどの意味があるのでしょう

私には、どうしても作り手の考える「悪」と、プレイヤーの考えるそれが乖離してしまっているようにしか思えないのです。「復讐のために」悪に染まるのであって、復讐そのものは必ずしも悪ではないでしょう

 

シナリオの基本の作りそのものが、「善人が悪人の野望・計画を阻止する」という構造をとっていて、悪に堕ちることを想定されていないように思えます。

悪人が悪人の野望・計画を阻止するのなら、悪人らしく、こちらも野望と計画で対抗すべきでした。スカルフェイスがサヘラントロプスを出してくるなら、メタルギアジークを引き揚げて改造するくらいのことはしても良かったですし、声帯虫で民族解放を計画しているのなら、全世界を戦場にして戦士たちにとっての天国にする計画で対抗する、みたいな感じに、とにかく「悪を善で制する」のではなく、「悪を、さらなる巨悪をもって踏み潰す」展開が必要だったのではないでしょうか。

ここで重要なのは、必ずしもスカルフェイスと敵対する必要はないということです。悪なのですから、思考は利己的であり、独善的であり、何より合理的であるべきなのです。

双方の計画が共存しうるなら、それに反対する仲間を切り捨ててでも手を組むくらいの決断ができる方が、よほど悪に堕ちているでしょう。

 

 このあたりの、悪ならではの汚さが一切描かれていないのも、今作の押し出す「悪」が弱い理由ではありますね。悪役が時に部下をあっさり殺してしまったりするのは、それが擁護不能な悪事だからなのです。

せっかくビッグボス本人という軛から解き放たれたのだから、もっとどぎつい悪役を演じられる可能性は十分にあったのに、本当にもったいない事をしたものです。

 

 まあ、プレイしていると、バトルギアあたりは明らかに当初の予定ではミッションに使えるはずだったような雰囲気がありますし、スカルフェイス死亡後の展開でやるつもりだったのかもしれませんが。

今後、DLCなどによるストーリーの補完はないとの噂を聞きましたが、このあたりは今からでも遅くはないと思いますので、なんとか頑張ってもらいたいところですね。