「この文章には、あることの他にないことも書かれている。ここで読んだことは、あくまで『ここだけの話』としておいてもらいたい。ご利用は自己責任で、ということである」
はじめに
#サイバーパンク2077 リリース日に関する重要なお知らせ pic.twitter.com/FNZ9C0Od1R
— CD PROJEKT RED Japan (@CDPRJP) 2020年10月27日
今日未明、11月19日発売予定だった『サイバーパンク2077』の発売延期が突如として発表された。
開発元が『ウィッチャー3』のCD PROJECT REDということもあって筆者も期待しているアクションRPGであり、残念でならないニュースだ。
さて、もしこれが単なる延期のニュースなら、ここで記事は終わりなのだが、この件は少しばかり立て込んでいて、実のところ筆者はソフトの品質そのものに疑念を抱きつつある。
今回はその点について、少し掘り下げてみようと思う。
延期について
まず大前提として、ゲームソフトが当初の発売予定日を先延ばしにする行為そのものは、決して珍しいことではない。
その理由はさまざまだが、ほとんどの場合は「ソフトの品質が商品としての水準に達していない」という文言でまとめることができる。
これは同時に、当初の開発スケジュールが見込みとして甘かったことと同義であり、開発体制についてユーザーに不信感を与えることを意味する。
そのため、発売日が迫っているにもかかわらず、ソフトがなおも開発中であるときに、苦肉の策として採られるのが、延期という選択肢なのである。
技術的にも期間的にも余裕をもって開発されたソフトと、当初の締め切りを守ることができず、延期に踏み切ったソフトでは、多くの場合、当初の予定通りに開発されたソフトの方がクオリティは高いものである。
適切な開発スケジュールの設定には、自社の開発力とソフトの規模を正確に把握することが必要なため、これが出来ている開発は「身の丈」を知っており、バランスの良いゲームを作りやすいと考えられるからだ。
これらのことから、基本的に延期はできる限り避けたい「悪」だということが分かる。
今回の特殊性
一般論はこのあたりにして、では『サイバーパンク2077』の延期事情について振り返ってみるとしよう。
このソフトは、当初は今年4月16日発売の予定であったのが、コロナ禍などの諸事情により開発が遅れ、9月17日発売に延期され、それがさらに11月19日に延期された。
つまり、今回の延期、つまり12月10日までの延期は、最初から数えるとすでに三回目の延期ということになる。
三回の延期というのは業界で聞かない話というわけではないが、少なくともすでに難産の域にあるとは言えよう。
これだけでもソフトの品質に不安を持つ十分な要素ではあるが、問題はこれにとどまらない。
開発元は、さる10月28日にマスターアップ、つまりは開発完了を宣言している。
これは、開発者自身の言葉を借りるなら、以下のようなことを意味する。
「ゲームの出荷準備ができており、クリアすることが可能で、すべてのコンテンツが実装されている」
ここで、「だったら発売可能なんじゃないの?」と疑問に思われた方がいるかもしれないが、字義通りに解釈するなら、実際に発売自体はやろうと思えば可能な状態にあるということなので、この疑問は的を得たものといえる。
実際、マスターアップ宣言後に延期するというのは、そもそもが矛盾した行為であり、業界でもかなり異例だ。
まとめると、「延期がこれで三度目であること」「すでにマスターアップを宣言していたこと」この二つが今回のケースで特異な点だといえる。
いま何が起きているのか
上でも書いたように、マスターアップ宣言後の延期というのは異例のできごとだ。
こういったことをやってしまった例としては、筆者の知る限りでは成人向けゲームの小規模なチームが破綻した開発計画を無理やり実行したものくらいしかなく、そういった場合は(これも筆者の知る限り)例外なく品質的にかなり問題のあるソフトが発売されてしまうか、そもそも発売自体が中止になってしまう、といった結末を辿っている。
くどいようだがマスターアップをしたということは、開発者自身がゲームがプレイ可能なことを一通りチェックして、GOサインを出したということだ。
マスターアップしたゲーム内容が初期生産分のディスクに焼かれることになるため、さすがにいまどきほぼいないとはいえ、ネットに繋がずゲームをしている人にとってはそれが「決定版」となる。
なので、その時点で最低限は遊べ、なんとか商品として許容できるというのが、品質管理上もとめられる水準だったのである。
ところが、CD PROJECT REDは土壇場で現行バージョンを商品として不可としてしまった。
これが意味するところは分かりきっている。
つまりは、マスターアップ宣言直前には見つかっていなかった重大な不具合、それも商品として流通させれば問題になることが必須のものが発見されてしまったということだ。
推測:抱えている問題
発売延期の発表には、延期の主な理由がなんだったのか、はっきりとしたことは書かれていない。
しかし、ある種の示唆がここにはある。
このゲームがPCのみならず、コンシューマー現行機、次世代機、そしてStadiaのようなクラウドゲーミングサービスにも対応しており、これらの数多いバージョンの存在が負担になっている旨が明記されていることだ。
言うまでもないが、これは延期の直接的な理由を説明しているのではなく、その理由が生じた遠因、ここでは多数の対応プラットフォームという悪環境を挙げているにすぎず、つまり遠回しな言い訳である。
複数のバージョンを管理し、いずれのハードでもスムーズに遊べるようにすることは確かに大仕事ではあろうが、では具体的に現状の何をもって「スムーズではない」と判断したのかが、ここには書かれていない。
思うに、これは敢えて書かなかったのではなく、書けなかったのであろう。
開発者としてマスターアップ後に重ねて延期をすることの意味については重々承知しているはずで、ここで延期の理由を曖昧にすることがさらに不信を招くことも理解していたはずだ。
となると、それでもなお書くのが憚られるような問題が見つかってしまったとしか、もはや考えようがない。
将来の予測
対応の強引さをみるに、目下開発者が必死で対応しているであろう不具合は、例えばセーブデータを破損しうるほどのものであっても不思議はない。
よって、明記されている「クオリティアップ」とは、決して開発者の職人的こだわりや矜持による、100%を120%にするようなことを意味したようなものではないだろう。
せいぜい95%を100%にする、悪くすると、75%を80%にするようなことかもしれない。
延期期間がわずか21日であるというのも、この状況ではかえって不安である。
この段階で上に書いたような重大な不具合を見落としているというのは、品質管理体制に大きな問題があることを示唆しており、恐らくまだ見つかっていない問題が、それも大きなものが多数あると考えられる。
たった3週間でこれらが払拭できるとするのはあまり合理的な結論には思えず、どちらかといえば、これが経営上許される限界の日数だとした方が腑に落ちる。
まず12月10日に発売に漕ぎ付けられるかがかなり怪しいけれども、仮にできたとして、発売同日に配信される(であろう)大容量パッチでは今の段階で見つかっている重大な問題を修正するのが精一杯で、これから雨後の筍のごとく生じてくる問題には、とても手が回るまい。
つまり、『サイバーパンク2077』は高い確率で未完成品として発売される、と筆者は踏んでいる。*1
終わりに
『サイバーパンク2077』は、筆者が今年最も期待していた作品である。
であるだけに、この結論は極めて残念だが、もはやこのゲームに大きな期待を抱かぬ方がよいだろう。
ゲームデザインや選択肢の多様性は期待通りだったとしても、膨大なバグが望むようにプレイさせてくれない可能性は無視できず、悪ければそもそも基本要素やバランスが崩壊しているかもしれない。
未完成品を摑まされる覚悟がないのなら、発売日以降のレビュー等を参考にしてから購入を検討すべき一本だと、言わざるを得ないのである。*2