
- 1.この記事について
- 2.作品解説
- 3.突然の炎上
- 4.作中の家系について
- 5.作中の秘術について
- 6.婚約
- 7.婚約破棄
- 8.そして炎上へ
- 9.燃料の追加
- 10.コメント欄閉鎖
- 11.展開の何がいけなかったか
- 12.作者のコメントの何がいけなかったか
- 13.今後の展開について
- 14.終わりに
1.この記事について
Web小説『現代陰陽師は転生リードで無双する』が炎上している。
この記事は、偶然にも約2ヶ月前からこの小説を読み始め、ちょうど現行のエピソードに追いついたとたんにこの炎上騒動に遭遇したこの俺が、いまから小説を読み始める(3年分80万字)のはアレだけど内情が知りたいという好奇心旺盛な人間どもや、小説自体に興味はないけど炎上しているのが面白いのでその無様な実態を知りたいといういっちょかみのアホのため、分かりやすく、しかし詳しく解説する記事である。
2.作品解説
『現代陰陽師は転生リードで無双する』(以下、「本作」)は、タイトルを読めば分かるように、転生者である主人公が、そのチートな能力を背景にして社会的成功を勝ち取るというテーマの作品である。世界観的には、怪異やガチ霊能者の陰陽師集団が実在する現代日本を舞台にしたファンタジーだ。
作品の特徴としては、主人公が徐々に成長していくのをあまりスキップせずに描写している点が挙げられる。さすがに赤子の時はそんなに長くないが、生まれたときから話が始まってリアル時間で3年が経過する2025年現在、まだ主人公が中学校に入学したところであるといえば、そのスローペースぶりがよく分かるであろう。
このように作中時間の経過としてはかなり緩やかな作品だが、対照的に主人公の活躍具合はチート系作品らしく華やかで、上述した中学入学の時点で少年の主人公はすでに日本最強とみなされているし、実力的にも疑いのない状態にある。他に、大人でも手も足も出ないような強大な怪異をワンパンで倒したり、飼い主の霊力次第で種類や強さの変わる霊獣がなんかすごい瑞獣みたいなやつになっていたりする。
言ってしまえばそれだけの作品なのだが、割と丁寧にこういう経過が描かれているので、この3年間はなかなかの人気を誇っていた。(らしい)
3.突然の炎上
そんな本作が、3年の時間と7つもの章を終え、いよいよ年齢的にもキャラクターたちが思春期にはいる8章に突入したところで、事件はおきた。
この経緯については、軽く調べれば分かりやすくまとめている文章に出会うことは出来るが、この記事をわざわざ読みに来ている人間どもはもう少し細かな事情を知りたいであろうから、この記事はそのへんを掘り下げている。
正確な理解のために、最低限の設定を解説する必要がある。
具体的な描写に触れたり、ストーリーのネタバレに抵触する可能性があるので、読むときには注意すること。
4.作中の家系について
まず、作中世界で霊力、すなわち怪異と対峙するために必要な超自然的な現象を操る力というのは、誰にでも備わっているものではない。
持って生まれた才能があり、適切な訓練を経て初めて使用可能になる。そして才能は遺伝する。
勘の良い人間どもはこの時点で気がつくかもしれないが、こういった才能は稀で、ゆえにこの世界の陰陽師は非常に血統主義的な集団であり、職務は世襲化し、いくつかの有力な家系が国家の霊的な防護を担う状態となっている。早い話が、現代日本を舞台にしていながら、陰陽師社会は前時代的な、貴族社会に近い構成をしている。
こうしたなかで、関東陰陽師社会の頂点に君臨しているのは個人ではなく「安倍家」という家系である。彼らはもちろん安倍晴明の末裔で、周囲を固める他の有力家系も、安倍の分家であったり、婚姻関係を結んで縁の深い家系であったりする。
対して主人公の実家である峡部家(きょうぶと読む。ケッタイな名である)は没落した家系であり、かつては栄えていたらしいが、物語は始まった時点では、ほぼ断絶寸前の核家族にまで落ちぶれている。本作は、没落貴族の出身である主人公が実力で目にものを見せ、実家をもりたてる物語だと見ることもできる。
5.作中の秘術について
本作の陰陽師の家系はそれぞれに得意な分野が異なり、たとえば主人公の峡部家は召喚術を得意とする設定がある。このように各家系には、門外不出の秘術が存在し、これはしばしば奪い合いの対象になったり、交渉の材料になったりする。
血統により受け継がれる才能と、秘術や訓練によるブラッシュアップ。この2本の柱のために、本作の陰陽師の家格と実力はおおむね比例する傾向にある。
どんな秘術があるのか、さすがに一つ一つ取り上げはしないが、ここで重要なのは峡部家(主人公の実家)から安倍家(業界トップの家)に、秘密裏に秘術の提供があったということである。これは、子供の霊力を大きく上げるが、適合しなければ死亡する可能性が高いという危険なものだった。
その後、この秘術を使わなくなった峡部家は衰退していき、秘術を最大限に利用した安倍家はその権勢を盤石なものとしたが、生まれてくる子供の多くが適合せず死んでしまうという代償を支払うことになった。
詳細は省くが、主人公はこの秘術の欠点をなかば克服した人物であることも重要である。
6.婚約
前提となる知識が揃ったところで、そろそろ炎上の核心へと迫っていこう。といっても複雑なものではなく、登場人物は四名にすぎない。
- 主人公:ローティーンながら日本最強と呼ばれ、絶大な実績を誇る。安倍家の姫の人柄はよく知らないが容姿は知っている。
- 安倍家の姫:かなりの美形。それ以外はほとんど描写がない。主人公とややセンスの違うことが言及されている。1歳年上。
- 安倍家当主(姫の親):主人公との婚姻を提案した。
- 峡部家当主(主人公の親):主人公の支援者。婚姻に賛成。
上記のように、十分な実績を挙げた峡部家に対し、関係の強化と5.で触れた秘術の欠点を克服するために、安倍家から婚姻の打診があり、当主同士の会合に同席した安倍家の姫もこれに同意したため、主人公と姫は婚約状態となった。ここまでが概ね好評な第7章までの内容である。
7.婚約破棄
ところが事態は急変する。常通り1週間毎の更新で公開された第8章、その内容は、いきなり6.の婚約が破棄されるというものであった。
婚約が破棄されるまでの経緯は、概ね以下の通りであった。
- 安倍家の姫には仲の良い幼馴染がいた
- 主人公と姫の関係はあまり良好ではなかったが、主人公の方は姫を気に入っていた
- 主人公は姫の機嫌を取ろうと努力したが、無駄に終わった
- 周囲からもこうした状況は明白だったらしく、なかには主人公に知らせるものもいたが、主人公は目を逸らしていた
- 上記のような状態が2年継続した
続いて、婚約破棄の場面について触れておく。
- 姫は幼馴染と抱き合いながら、主人公に自分との結婚を破棄してほしいよう頼む
- 主人公は屈辱に震えながら、自分から安倍家当主に婚約破棄を申し出ることを告げる
- 主人公は上記のような婚約破棄までの2年間(第8章)を後悔とともに振り返る
なお、重要な情報なので付記しておくが、このような姫の行動は、怪異のような存在による影響を受けたものだという設定がある。
これは名家の娘としての仮面を剥ぎ取り本音を露わにさせる、というもののようだ。これは本編で言及されたわけではなく、後に作者の解説によってネタバレという形で公開された設定である。
8.そして炎上へ
第8章は、始まるやいなや盛大に燃え上がった。あるユーザーの残した(現在はコメント欄の閉鎖のため確認できないが)「いきなり不快な展開でビックリ」というコメントは、当時の読者が抱いた感想を率直に反映していたと言えるだろう。
つまりは大半の読者にとって、この展開はまったく予想外のものであった。7.を見れば分かる通り、婚約破棄の最大の要因である「姫の幼馴染」はこれまで影も形もなかったので、予測のしようがなかったのだ。
コメント欄は大いに荒れた。この際の脊髄反射的な文言として「不意打ち寝取られ」というものが見られたが、これは展開について正確に表現できたものではなく、名状しがたいストーリーへの違和感を最も卑近な形で表現したように思われる。
読者の解釈がどうあれ、この展開は少なくとも、それ以前の本作の展開と同様に受け入れられることはなかった。日に日に増えていく不評に、事態を重く見た作者は窮余の策に打って出る。
9.燃料の追加
作者が何を考えていたのかを正確に推し量ることは難しいが、一つ確実なのは、読者が青天の霹靂のような婚約破棄に動揺したのと同じように、作者は作者で読者からのあまりに厳しい反応に面食らっていたということだ。
彼(ほぼ確実に性別は男性であろう)は、表現の意図を説明すると同時に、これから継続していく第8章について、今後の展開を開陳(ネタバレ)することにした。また、第8章の楽しみ方についてまとめ読みするのを推奨することまでした。
ところが、これがいっそう読者を怒らせてしまう。理由は大きく3つあった。
- この展開を選んだ理由について納得が得られなかった
- 書く必要のない内容が多かった
- 今後の展開について期待を煽ることに失敗した
コメント欄の不評は、むしろ勢いを増した。作者が報告した近況の文章が切り出され、出回り、さらなる批判を呼んだ。
ちなみにこのころ、作者が本作につけていた「鬱展開なし」のタグを除去したことも、また批判の対象となった。
10.コメント欄閉鎖
毎日のように迫る批判、あるいは罵詈雑言に、作者は苦悩した。
彼はさらなる近況報告を行ったが、それは精神的苦痛からコメント欄を閉鎖するというものであった。
作者へ直接批判を届けられなくなった読者あるいは炎上の便乗者は、主戦場をXやネット掲示板へ移していき、この結果、これら外部のネット空間から本作の炎上騒動を知るものが増え、ネガティブな意図を持った読者と批判者が一回り増えることになった。
11.展開の何がいけなかったか
以上が今回の炎上騒動のあらましである。俺の見る限り、作者の言動は炎上をかなり大規模なものにしてしまったと思うが、やはり物語の展開そのものも問題が多い。
まず最もまずかった点として、今回の展開におけるキーパーソンである「姫の幼馴染」について、それまで全く伏線が張られておらず、完全に新規の存在として物語に「侵入」してきたことが挙げられる。
言うまでもないが、なんの伏線もなく物語を大転換させるのは、内容にかかわらず、基本的には話を陳腐にしてしまう。これが推奨されるほぼ唯一の例外が「不意打ち寝取られ」という(普通に特殊性癖の)概念であり、ゆえに反射的にこれに言及する読者が見られたのかもしれない。
次に、姫の行動に一貫性がない、あるいは単純に非常に愚かである点が挙げられる。家同士の婚約、まして姫からすれば自分の家から申し出た縁談なのだから、これを自身の不貞という恐るべき理由で破棄しようとすることは端的に言って狂気の沙汰であろう。
ただしこの点については、上で付記したように、本来は隠そうとしていた本音が怪異の干渉によって暴露されたという事情があるようだ。この点についてはもっと考慮されなければアンフェアだと俺としては考えているのだが、いかんせん、これが明らかになった近況報告では「どこからどこまでが怪異の影響によるものなのか」が曖昧で、果たしてそれで納得できるようなものか判断がつきにくい。どうせネタバレするならこのあたりの事情を詳らかにすればよかったと思うのだが。
第三の問題点としては、一方的な理由で婚約を破棄される羽目になった主人公が、とうぜんあるはずの怒りをぐっとこらえて、自分から破談にするよう姫の父に申し出ると伝えている点である。これに関してはそこまでする義理があるとは思えないのが痛い所だ。常識的に考えれば、自分の都合で約束を反故にする姫か、あるいはその相手である幼馴染が話を通すべきであろう。
他にも細々とした問題点はある(たとえば姫が主人公とうまく付き合えていないのを知りながら、お付きの者たちは何をしていたのか、というのは当然の疑問として湧いてくる)のだが、大まかには上記の3つだ。
12.作者のコメントの何がいけなかったか
これまで見てきたように、物語の展開に問題があったのは確かであるが、どちらかといえばこの騒動をより大きくしたのは、読者の反応に対して作者がとった言動の方である。
短いものなので、これに関しては一度読んでみるのが早いだろう。
感じ方は色々あるとは思われるが、俺としてはまず、「凡夫」とか「だてに前世で独身やってません」といった言葉選びがまずかったと考えている。
作者としては自身の子も同然の主人公に親しみをもってこういう書き方をしたとは思うのだが、これを書くに至った経緯を考えると、主人公が理不尽な目に遭ったことに憤慨している読者に対して投げかけるのはあまり賢明ではなかった。
また婚活云々の話も明らかに余分であった。いきなりこんなことを書いては、「作者が婚活で失敗したんだな」といった憶測を呼ぶのは当然である。これに関してはさすがにアホ丸出しという言葉以外、俺は表現の方法を知らない。せっかく書籍化されているのだから、担当の編集あたりに一回でも読んでもらっていれば、少なくともこの部分に返しては止めてもらえていた可能性が高い。
同様に呪術廻戦どうこうも全く無用の話で、始まるとしても数ヶ月は先の第9章のネタが漫画と被っているかどうかなど誰も興味を持ってはいない。例えて言うなら、謝罪会見に現れた企業役員が、本題もそこそこに新商品の宣伝を始めるようなものである。
全体として、主人公の恋愛面というか人格面での未熟と失敗を描きたいのだなという意図はわかるが、伏線不足や非常識な展開が続いていく読後感の悪さといった問題点を正確に分析して書かれたものとは言い難く、もう少し冷静になってから書くべきであった感が強い。
13.今後の展開について
上記の近況報告を見ればわかるが、第8章は主人公が空回りする2年間を描いた内容になる。これがまた評判が悪い。
理由は明白で、このあらすじそのものに面白さが皆無だからだ。この内容は「恋愛面におけるネタバレ」であって、実際には第8章は学園生活などの他の要素を絡めながら展開していくはずであるから、別の部分の面白さが担保されているであろうことは、少し考えればわかる。
しかし、この文面だけ読むとそれは伝わってこない。というか、わざわざエクスキューズするためにこんな文章を書いているのに、美味しい部分もあることを全くアピールしないでどうするのか。誰も望んでいない第9章のネタバレを書くくらいならそこを書くべきだし、正直俺としては第8章のネタバレを読むつもりでスクロールしたら普通に第9章のあらすじが書かれていたことにキレそうなのだが。
閑話休題。
主人公の失敗談を長期に渡って描くことが非常にリスキーな選択であることは言うまでもないが、その後の展開についても今ひとつな部分が正直あるので指摘しておく。
それは、そもそもこの作品はヒロイン(というか女性キャラ)の描写がかなり薄いので、ヒロインレースをやると言われても誰が出走するのか困惑させられることだ。一応女性キャラは数人いるが、正直なところ、ここまでまともな描写がなかった姫と比べてもどんぐりの背比べとしか言いようがない。
未読の人間どものために、心優しい俺はヒロイン候補のリストを用意してやった。
- 幼馴染。あんまり顔が可愛くない(婉曲表現)と明言されている。
- 名家の娘。やたら精神年齢が高くクール。
- 名家の娘その2。双子。主人公に助けられたことがある。
- 名家の娘その3。呪詛に憑かれており主人公が解呪中。まだコミュニケーションはほとんど取れない。
- 同級生。不仲な家の娘なため主人公から警戒されていた。主人公のことが気になっている。
だいたいこんなもんである。「なるほど、よく分からんな」と思うかもしれないが、正直本編にこれ以上の情報が沢山詰まっているかというとそうでもないのでどうしようもないのである。
ちなみに容姿が優れていることに言及されているのは姫のみで、この点ではむしろここに挙げた誰よりも優遇された立場にあった。
姫はヒロインではなかったというのが作者の意図のようなのだが、それが読者に自然に受け入れられなかった理由の一つは、他のヒロインたちの描写が薄いため、キャラクター間にコントラストが出来なかったことが大きいだろう。
第7章が婚約で締めくくられたとき、第8章は姫が掘り下げられるのだなと俺もナチュラルに考えた。他のヒロインとの間に、その程度で追いつけるほどの描写の差しかなかったからである。
14.終わりに
インターネットにおける炎上は例外なくクソであり、炎上に加担している者たちはただ騒ぎたいだけのアホである。
しかし、燃やされる側に燃料があることで、ささいな失火が大火となることもまたありうる。
俺としてはこのまま第8章を続けて、ハリポタ的に面白い話になる可能性も全然あるとは思うが、言うて作者のほうがヒロインに別に興味もない感じがするし、ヒロインレースとか不得意なことをわざわざやらず、もう適当に姫をヒロインってことにして片付けたほうがマシなのではと考えている。
というかまとめ読みを推奨するような内容(つまり毎週読んでられないような内容)であるとわかった時点で、週1の投稿スタイルか話の内容かのどちらかを変えた方が良いと思うのだが……。まあもう好きにするしかないだろう。








