雑炊閣下備忘録

ブログというものを始めてみることにした。どうなるか分からないが、いろいろやってみようと思う。

パルワールドはパクリゲーか?

※以下の記事は執筆中で、明日以降内容が変わると思いますが、普通に忘れて放置する可能性もあるので一応上げておきます。

※(2024/01/23 18時追記)よく見たら社名はポケットピアではなくポケットペアでした。社名を間違えるのは本当にリスペクトの足りない行為だと思いますので、お詫びして訂正します。ポケットペアの皆さん、ごめんなさい。

※割と普通に読めるみたいで、編集しなくても良さそうなのでもうこれで完成ということにします。

 

 先日発売された『パルワールド』。Steamで驚異的な売り上げを記録している一方、ポケモンのパクリかどうかみたいな話が思った以上に話題になっているので、既プレイ者として少々語ろうと思う。

 記事の構成としては、概ね下記の目次の通りとなる。

 パルワールドを「パクリゲー」と言えるかどうかは、ゲームシステムとアートスタイルのどちらに重きを置いて評価するかによる部分があるので、出来れば「ゲームシステムの完成度」と「アートスタイルの類似点」については、どちらも触れていってほしいところである。

 なお、この記事では主に、パルワールドとポケモンシリーズの類似点について取り上げ、たとえば『ゼルダの伝説』シリーズとの類似点などについては、議論の対象外とする。同様の議論の反復となるためである。

話の前提

 このゲームを開発したポケットペアはインディーズゲーム会社であり、前作に当たる『クラフトピア』もパロディ満載の作風であった。

 上記リンクにある同作の動画を見て頂けば分かると思うが、『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』を始めとするパロディ、敢えて悪く言えば「パクリ」が多く見られる。

Steamストアページより

 クラフトピアが特徴的であったのは、こうしたパロディがゲーム中の至る所で臆面もなく登場することで、良く言えば素朴な身内感、悪く言えば無責任な鈍感さが漂っていた。
 「なるべくオリジナリティを出していこう」といった創作者に普遍的な意思が、クラフトピアからはあまり感じられなかった。誰よりも開発者たち自身が、パッチワーク的に構成された作品に満足している感があり、要するに、ノリが同人サークル的だったのだ。

ゲームシステムの完成度

 周知のとおり、ヒット作のシステムを踏襲することはゲーム業界の伝統であり、特許によってガチガチに固められてでもいない限り、非難されることはない。

 パルワールドはいくつかの作品の要素が複合したものだとよく指摘され、それは概ね正しい。1つ付け加えるとするなら、パルワールドはその上で、かなり高いクオリティを実現しているということだ。

 どのあたりが高品質なのかを語る前に、まずは参考にしたと思われる作品をざっと挙げてみよう。

 ジャンル的にも内容的にも最も近いと思われるのは、実のところポケモンではなく『ARK』シリーズだろう。

『ARK: Survival Ascended』。Steamストアページより。

 同シリーズはごく簡単にいえば恐竜をテイム(手懐けること)して遊ぶサバイバルクラフトゲームで、本作が直接参考にしたであろう作品のひとつだ。

 ポケモンシリーズで言えば、『Pokémon LEGENDS アルセウス』が影響元にあたるだろうし、マップの構築の点で言えば『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』や『ELDENRING』などが挙げられる。そして自動化の元祖といえばやはり『Factorio』だろう。

www.pokemon.co.jp

www.nintendo.co.jp

www.eldenring.jp

store.steampowered.com

 特筆すべきなのは、パルワールドは、これらの要素を組み合わせるのに際して、しっかりとした創造性を発揮しているということだ。

 例えば、拠点を建設して生産を自動化していくのは『Factorio』や前作『クラフトピア』と同じだが、本作ではテイムしたパル(パルワールドにおけるモンスターの総称)を労働力として使用するという特徴がある。

 パルたちは自身の気分によって(基本はかなりワーカホリック気味ではあるが)自律的に行動する。プレイフィールとしてはやや『RimWorld』に近い。

固有のモーションで働くパルたち。空腹状態のパルは、作業を中断して食事をとりにいく。

 可愛らしいキャラクターたちが、それぞれに固有の動きで役割を果たし、協力してくれるというのは、かなりリッチで、そしてユニークな体験だ。

 マップにはオープンワールドを採用しており、細かい部分には粗もあるものの、風景的にも魅力的な部分が多い。

 特徴的なロケーションにはちゃんと「ご褒美」も置いてあり、ただ広いだけの荒野とは違う。

 それぞれの地域ごとに生息するパルが異なるため、風景的にパッとしないところでも目が離せない楽しさもある。

夕暮れの風景。遠くに見える山脈にもロケーションがある。大樹も気になるところ。

 ポケモンに関して言うならば、ダメージを与えたり、状態異常にして弱らせたモンスターに、ボール型の捕獲装置を投げて捕まえる、という流れはそのまま引き継いでいる。

 基本的には捕まえれば捕まえるほどレベルが上がり、レベルが上がれば強くなるだけでなくクラフトできるものも増えるので、とにかくパルを捕獲しまくることにモチベーションが刺激されるように設計されている。

 同じ種類のパルを捕まえたとき、最初の10体までは豊富な経験値を貰えるのも、なかなかよい塩梅をしているといえよう。

 戦闘に関してはまあ、割と凡庸なシューターだ。パルと共闘できる楽しさはあるという程度である。

 建築モードの操作性の悪さなど、気になる部分ももちろんあるが、それを補ってあまりあるほど、パルワールドのゲーム部分はしっかりしている。正直、これがアーリーアクセスだとは信じられないほどだ。

 こうした魅力的な要素の数々が、見た目通りの完成度で実装されているのは、ひとえにポケットペアが既存作品の長所や短所を入念に研究しているからに他ならない。

 こうした研究の上で、それぞれの作品の要素がほどよく調和するようにゲームを構成するのには大変な困難を伴うので、ポケットペアは今回、かなりの生みの苦しみを味わってゲームを開発したはずである。これを単なる「パクリゲー」として片づけてしまうのは、あまりに勿体ないだろう。

 さらに言えば、これらの要素は実のところ、ポケモンシリーズが望まれながらも実現できていないものでもあり、かなりの需要がある。

 パルワールドがこれだけのヒットを記録しているのには、「ユーザーの求める作品をしっかり打ち出した」こともかなり大きいのだ。

 ちなみに、パルワールドは露悪的な部分がクローズアップされがちだが、パルたちに残虐行為を働くのは別に必須ではないし、ゲーム中に推奨されるようなこともない。

 やり込みをしたり、PvPが実装されればまた別かもしれないが、どちらかといえばパルたちを労り、仲間として扱うほうが攻略上も有利に思える。

 銃を使ってパルと戦うのすら、不快なら戦いは仲間のパルに任せてしまって構わない。ちなみに倒したパルは死亡しているわけではないようで、よく見ると気絶していることが分かる。

温泉でくつろぐパル。温泉は必須の施設ではないがあった方が生産効率も上がる。

 このように、万人受けするようシステムを丁寧にアレンジしている本作は、少なくともゲームシステムの点ではパクリゲーの烙印を押されるべきではない。

アートスタイルの類似点

 今回の『パルワールド』が発表されたときに、誰もが思ったのが、「ポケモンに似ている」だというのはほぼ間違いない。パルたちはポケモンと類似しない部分を探す方が難しいほど、デザイン的に酷似している。

 しかし、具体的にどの部分が似ているのかについては、意外に細かく指摘しているものは少ないため、すでに周知のところではあるが、ここでもう一度触れておきたい。

 全般的には、ポケモン的なパーツ表現の多用が挙げられる。丸枠の窓のような形状、あるいは三角形の目や、身体のマットな質感などはポケモンの共通項的な表現だ。より露骨なものとしては、体型、細かなパーツ、配色などが「複合的に」類似しているものがあり、このあたりはオリジナルなデザインというよりも既存のアレンジに近い。

 以下に2つほど例を挙げる。これよりも似ている例なども普通にあるが、画像の調達が面倒だったので手に入りやすいものを提示する。

 気になる人は検索してみてほしい。

端的な例。

もう一つの例。なお画像はいずれも公式サイトのものを、比較しやすく加工してある。

 デザインの類似性をどこまで認めるか、という事柄については主観の部分が大きく、一概に言えない部分はある。しかし、上述した部分に関しては、概ね客観的に認め得るであろう。

 ちなみに本作の3Dモデルは出来がよく、またモーションも豊富だ。「火を使う」モーションには種類ごとに固有のものが使われている。たとえば下の画像のように。

火を使った調理をするパル。

炉に火を入れるパル。

 些細なことではあるが、こうした固有のモーションは「このパルだったらどんな仕事のやり方をするんだろう」という好奇心を刺激するため、プレイのモチベーションを大いに高めてくれる。

 作成に工数もかかるため、本来ならば手放しに称賛されるべきなのだが、モーションを与えられているパルたちはだいたい何かしらのポケモンに似ている。

 そして、似ているということそれ自体がどうというよりも、「似せ方に元ネタへのリスペクトを感じない」というのが問題になってくるのだ。

リスペクトとは何なのか

 一般に、模倣によって利益を生むことは非難される傾向にある。
 新たな概念の創造には多大な苦労(コスト)を伴うが、これに対し模倣は比較的簡単なので、先行者の利益がある程度保護されなければ公平性を欠くし、さもなければ、いずれは誰も創造などしなくなってしまうからである。
 しかし、そうは言っても、ひたすら先行者のみを優遇するのでは、世の中は回らない。人類の圧倒的多数は後発者であり、そもそも創造は既存パターンの組み合わせに過ぎず、厳密には常に何かしらの「元ネタ」が存在してしまうからである。

 こうした事情のため、我々の社会は模倣を正当化するための論理をいくつか発明することになった。

 もっとも分かりやすく正当なのは、先行者の許可を得ることだ。しかし無許可の模倣であっても許される論理が存在する。それが、模倣者が先行者に敬意を払っているという状態、つまり「リスペクト」の概念である。

 リスペクトについて論ずる前にまず押さえておきたいことは、究極的にこれは内心の問題であるため、証明のしようがないということである。リスペクトは常に解釈の問題であり、人によってかなりの幅がある。

 ただし、幅があるからといって、それが実質的に無意味なものであるとか、実態のないものだというわけではない。

 「ゲーム業界はパクリパクられの歴史だから問題ない」などという意見は、この点で全く的を外している。

 ある模倣者にリスペクトがないと解釈された時、その模倣者は必ず悪印象を得るのであって、それが今まさに起きていることなのだ。

 ではなぜ、パルワールドはリスペクトのない模倣者とみなされているのだろうか。その理由として、まず似ている部分の本体がアートスタイルに属することが挙げられる。

 つまり、見た目が似すぎているのである。

 一般に、ゲームというものはシステムや遊びの部分が中身であり、グラフィックはガワだとみなされる事が多い。このために、「グラフィックを差し替えるのは簡単」という固定観念が確立しているのである。

 つまり、模倣する必要がない部分まで無思慮に模倣しているように見えてしまうわけで、これが作品への理解が浅い(=愛着や敬意も薄い)と解釈されうる。ゆえに、アートスタイルが不必要に似通った作品は「パクリ」と見なされやすいのである。

 逆に言えば、ゲーム内容にほとんど差がなくとも、見た目が大きく異なれば、「最低限の差別化はしている」として、ある程度のリスペクトはあると判断されることは多い。これについては「狩りゲー(モンスターハンターシリーズ)」や「ソウルライク(ソウルシリーズ)」など、特定作品を元ネタにした作品群を見ればよく分かるだろう。

 さらに、実はパルワールドにおいては、アートスタイルがポケモンに類似しているべき理由が別にあるのだが、それは本作のリスペクトを補強するどころか、むしろより「パクリ」と非難されるべき理由になってしまっているので、次の項目ではそれについて説明する。

類似している理由

 上述したように、パルワールドが批判にさらされるのは、要するにポケモンに似すぎているからである。なぜ、もっと似ていない姿にしようとせず、わざわざ「法務部のレビュー」が必要なデザインに仕上げたのだろうか。
 この疑問の答えは、恐らく大きく二つ存在する。

マーケティング上の戦略

 第一に、「ポケモンと尋常ではなく似ている」といった事実自体が、マーケティング上、大きな効果を生むからである。「悪評は無名に勝る」という言葉があるが、どんなに優れた作品でも、まずその存在を周知されなければ売り上げは見込めない。
 特にSNSが普及し、ユーザー自らが情報を発信し合うようになった現代では、何よりもまず「拡散したい」と思わせる情報こそが有効である。この点でいえば、「こんなにポケモンと似てる! 酷いと思いませんか!?」という発信は、ポケモンが極めて高いブランド力を持つIPであることを思えば、「パルワールドおもしろそ~!」といったポジティブなメッセージと同等か、下手をすればそれ以上の拡散力を持つ。
 いわゆる「炎上商法」と似た戦略だが、短期的には確かに有効である。ただしわざと炎上するということは、それだけ人の神経を逆なでしているということであり、長期的(つまり次回作など)にはマイナスの結果を招きうる。

開発コストの削減

 第二に、ポケモンが持つ高いデザイン力に依存することで、コストを削減できるからというのもある。パルワールドには実に100種類以上ものパルが登場するが、これだけのデザインを行うのには、通常はかなりの困難を伴う。すでに無数のサンプルがあるうえに、それぞれの質が担保されているポケモンを参考にすれば、デザインは遥かに容易かつ迅速になるだろう。
 パルワールドは3Dアクションゲームであり、パルそれぞれに固有の3Dモデルとモーションがあることを考えると、必要な工数は前作クラフトピアの比ではない。このことは他ならぬ開発者自身が言及している。
 実際にプレイしてみると分かるが、モーションは一つ一つ丁寧に作りこまれており、この点で手を抜いていないことは明らかだ。ただ、ここまでモーションに注力できたのは、デザインの草稿段階でポケモンを最大限に利用したからという前提があるのは言うまでもない。
 これはポケモンが生み出される際のデザイン上のコストを一部スキップしたということであり、つまりポケモンに「世話になった」状態だということを意味する。だからこそ、デザインの寄せ方にリスペクトがないという事実が非難の対象となりうるわけだ。

ポケットペアというゲーム会社

 これら二つの理由には、共通した背景がある。それは、ポケットペアがまだ小さなゲーム会社であり、独力でゲームソフト市場を立ち回ってゆけるだけの実力がないということだ。
 たとえばポケモンとは似ても似つかぬ、オリジナルのモンスターだったとしよう。恐らくアートスタイルがどんなに優れていても、ゲームの中身の完成度が高くても、ポケットペアがネット以外に大した宣伝媒体を持っていない以上、話題性はせいぜいクラフトピア+αに留まる程度だったであろう。
 これでもインディーズゲームとしてはかなり立派な水準ではあるが、前作クラフトピアの出来が最終的に今一つであることを考えると、どこまで売り上げがあるかは怪しいところで、莫大な開発費を掛けていたことを考えるとかなり厳しいものがある。
 開発力の点でも、ゼロからモンスターデザインを開始してモーションも創作して、という多大なコストを負担できるだけのものは、恐らくポケットペアにはまだない。時間も人も経験も足りないはずで、要するにポケモンのような3Dゲームを作ろうと思うこと自体が、まだ分不相応なのである。
 こうした「無理」を通して開発されたのがパルワールドなのである。無理を通しているわけであるから、とうぜん道理は引っ込むことになる。そして今回引っ込まされたその道理というのは、先行者へのリスペクトであり、さらに言うなら職業倫理であった。

終わりに

 今回の問題はゲーム界隈においてはかなり大きな話題になっているが、よく見るのはアートスタイルの類似性に対する批判に、ゲームシステムの類似性に対する擁護がぶつかり合っている局面で、ユーザー自身も混乱していることが分かる。
 ゲームシステムの類似性については、上記したように実際の内容からして問題のあるものとは思えないし、法的な問題に発展しないよう、アートスタイルでも配慮が行われているのは間違いない。
 しかし、だからといってこのアートスタイルの酷似ぶりは、全く擁護できるものではない。似せている理由に、どこまでいってもポケットペアの都合しかなく、自らの利益のために他社の努力を蔑ろにする姿勢は、まったく唾棄すべきものである。
 パルワールドの売り上げはかなり好調なので、もしかすると続編を作ろうという話になるかもしれない。しかし、開発者自身が語ったような、今回のような「奇跡」が次も起こるとは限らない。ギリギリを攻めすぎれば、今度こそ法的な問題を起こしてしまうリスクもある。
 だからこそポケットペアは自らも有力なIPを持つことを望むであろうし、誰にとってもそれが望ましい。その時のためにも、今回のような手法はこれを最後にすべきである。これだけのスマッシュヒットを飛ばした会社は、もはや弱小のインディーズではない。確固たるブランドを持つ開発会社として、今後は品格のある行いを求めたいところだ。